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菅原 唯斗さんの部屋 | 9月活動報告書

写真:山(森)に入る参加者たち

先日の雨の日、村の山野草の会に参加しました。
 
その日の朝は、しとしとと小雨が降り続いていました。空は厚い雲に覆われているのに、不思議と森に入る前から胸の奥に静けさが広がっていくようでした。
 
雨の日は何かと出かけるのが億劫(おっくう)になることもありますが、この日はむしろ、森の緑や山野草がいっそう鮮やかに見えるのではないかと楽しみで、傘を手に会場へと向かいました。
 
会の集合場所には十数名ほどの参加者が集まっていました。皆それぞれ雨具に身を包み、長靴や登山靴を履き、少し心が躍るような雰囲気を漂わせていました。
 
普段から植物に詳しい方もいれば、私のようにただ自然に触れたくて来た人もいて、顔ぶれはさまざまでした。
 
静かに雨粒が地面を濡らし続けるとき、案内役の方が「今日は雨だからこそ見られる植物の表情がありますよ」と柔らかく話してくださいました。その言葉を聞いて、雨の日の森がどんな姿を見せてくれるのかと、期待が一層高まりました。
 
森に入ると、まず目に飛び込んでくるのは苔の鮮やかさでした。雨粒をたっぷりと含んだ苔は深い緑に輝き、幹や石の上を覆い、まるで小さな森をもうひとつつくり上げているかのようでした。ふだん乾いた日に見る苔とはまるで違い、みずみずしさと生命力にあふれています。その一面を目にしただけで、心が不思議と穏やかになり、余計な雑念が洗い流されていくような気持ちになりました。
 
歩みを進めると、道ばたにはいくつもの小さな植物が姿を見せていました。名前も知らない草花たちが、雨に濡れながら凛として立っています。案内役の方がひとつひとつの草を指差しながら名前を教えてくれるたびに、その植物がどのように季節を越えて育っていくのか、どんな環境を好むのか、少しずつ物語が見えてくるようでした。普段なら通り過ぎてしまうほど小さな存在が、雨に濡れた森の中では宝石のように輝き、目を引きます。
 
特に印象的だったのは、葉先にたまった水滴が光を受けて揺れる姿でした。ほんの数ミリの滴の中に森の景色が逆さに映り込み、風に揺れてはきらめきを放ちます。その一瞬を見逃さないように立ち止まってじっと見つめていると、時間がゆっくりと流れていくのを感じました。
 
また、森の中では雨音にも不思議な表情がありました。大きな木の葉に落ちる雨は深く響き、地面に広がる落ち葉に落ちる雨は柔らかく吸い込まれていきます。苔の上に落ちた雫はほとんど音を立てず、ただ静かに吸収されます。雨と森がつくり出す音の重なりは、まるで音楽のようで、私たちを包み込んでいました。
その響きに耳を澄ませていると、自分が自然の一部になったような感覚を覚えます。
 
山野草の会では、参加者同士の交流もまた魅力です。ある方は幼い頃から山で植物に親しんできたそうで、植物の名前を次々に口にしながら「この時期にはこの草が咲くんですよ」と教えてくれました。別の方は都会から移住してきたばかりで、「自然の中に入ると気持ちがリセットされますね」と笑顔で話していました。
 
世代や背景は違っても、みんなが同じ森の中で小さな植物を見つめている。その共通体験が自然と心を通わせてくれるのだと思いました。
不思議と、森の中では大きなものよりも小さなものへと目が向きます。大木や岩といった堂々とした存在よりも、足元にひっそりと息づく小さな花や草に心を奪われるのです。なぜ人は小さなものに惹かれるのだろうかと考えると、それはもしかすると、見過ごされがちなものにこそ豊かさが宿っているからかもしれません。
 
ほんの小さな苔の群れや、小さな花びらの中に、自然の時間の積み重ねが凝縮されている。そこに目を留めることで、自分自身も丁寧に日々を重ねていきたいという思いが生まれました。
 
森を歩き終える頃には、靴もすっかり濡れていましたが、不思議と心は晴れやかでした。雨の日にしか見られない景色を体験できたこと、そして仲間と共にその感動を共有できたことは、大きな喜びでした。外に出る前には「今日は少し大変かな」と思った雨が、帰る頃には「この雨があったからこそ」と感謝できるものに変わっていました。
 
そして、この体験を経て、滋賀へ出かける予定があることを思い出しました。そこでは多くの人に出会えるはずです。自然の中で得た感覚や、ちいさな存在への眼差しを胸に、人との出会いもまた大切にしていきたいと思います。
 
植物をひとつひとつ丁寧に見つめたように、これから出会う人々の言葉や表情にも、丁寧に耳を傾けたい。
 
そのような思いを抱きながら、心待ちにしています。
雨の日の山野草の会は、自然が持つ豊かさと、自分自身の感性を見つめ直す機会を与えてくれました。
 
これからも、見過ごされがちな小さなものに目を向けることを大切にしながら、日々を歩んでいきたいと思います。

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